ダイヤモンドリング…?
〜もしもやっぱりキーンが「吾郎との婚約には指輪が必要だ!」なんて思い直しちゃったりしたら…の巻
た、大変なことになった! 何でもっと早く気付かなかったのか! 悔やんでも遅い! けど…!
「いらっしゃいませ!」
豪奢なドアを潜ったここは老舗のジュエリーショップ。その奥行きのあるダンスフロアさながら絢爛で上品な店内に、なんと客は二人きり。俺と…そしてこいつ。誰だなんて聞くな、聞かないでくれ。ニコニコ微笑むセールスクラークは、文句なしにバッチリ決まってる美女。カウンターから出されてキラキラ輝く指輪は、高価で美麗な最高級品。しかもひとつやふたつじゃない。とってもたくさん! 女だったら喜ぶだろう眩い光景。しかしどう見たって木偶の坊みたいに突っ立ってるだけの自分には、その豪華さはあまりに不似合い。まったくお門違いの煌きに、思わず顔がヒクヒクひきつる。
「だんな様にはどれもお似合いです。ね? だんな様」
だ、だんな様!! ひー、なんで買うほうも買われるほうも「だんな様」なんだ! ま、まさか、その変さにまるで気付いていない!? …、いや、違うな、店員は違うな。店を貸しきる上玉だもん、男を連れてる非常識は完全スルー。応対は完璧、非の打ち所のないセールストーク。わなわな震える自分の目の前に差し出されていたのは、立て爪のダイヤモンドリング。映画にでも出てきそうなデっカイ石の。
「他のものもどうぞお手にとってご覧くださいね」
うおお、ありがとよ! 美人のおねぇちゃん!! メジャーリーガーのホモカップルを見守る優しい微笑には、ついホロリとキちまいそうだぜ!!
「どれがいい? 選べ」
ぎゃー!!! そう絶叫したいのを何とか堪える。それくらいの常識はちゃんとある。大丈夫…、まだ大丈夫。冷静になれ! 冷静に…、でも!
「こっちはどうだ? ダイヤが3石ついている…」
微妙に上ずった声を聞いて、さらに背中にびっしょり嫌な汗をかいた。ああ! こいつってば上機嫌だ! いかめしい面構えでホームベース守るこいつが!
「こっちもなかなか…」
ダイヤモンドはよりどりみどり。ちょっと待てって! ここはグラウンドじゃないんだぜ? マウンドじゃないんだぜ? ボールパークのダイヤモンド? ノー! 当然違う別世界! 正真正銘ここはジュエリーショップで、ダイヤモンドリングをゲットしようとしている男が隣に…俺の指にはめるために。いつもの18.44メートルよりうんと近い距離。なぁ、これは一体どんなジョーク?
「どうした、遠慮なんかするな」
い…っ、今すぐこいつをぶん殴りたい!!! てめぇのそのニヤついたハンサム面がへこむ位、鼻血で思い切りグーでパンチしたい、ぶっとばしたい!
「お前のどれでも好きなものを…」
ああああ!! バカ! ああ、もう! キーンのバカ! お前がこんなにバカだったなんて!
「キーン…」
おそるおそる、名前を呼んだ。それ以上、抗議もできなくて、柄にもなくうろたえる。普段、あんなにマスゴミ(ゴミ!)だのパパラッチだのに気を配っているキーンが今夜はこんなにも無防備で、そりゃもう不思議で仕方ない。安心しろ、準備は万端だよと、したり顔のキーンが差し出した手。うっかり取ったら、とんでもないことになった! なるほどな、相当自信があるんだろう、…そりゃそうかも。皆既日食にあわせた旅は、キーンが仕組んだハネムーン。だからきっとその瞬間の全てに溜息をつくような情熱と安心が込められているわけで。ホントに抜かりねーよな、お前ってな!
『…何よりも美しいこのリングを…お前に』
なんて気障を! 皆既日食のダイヤモンドリング。美しい浜辺、どこまでも続く波打ち際をたった二人きりで独占。コロナが輝くあの奇跡のような太陽を一緒に見たかった…だなんて! バカヤローって怒鳴りながらも、クラッときた。倒れそうだった。でも倒れなかった。キーンがずっと俺を支えていたからだ。
思い出すと体の芯が熱くなる…、こんなにもキーンに愛されているなんて、…分かっていた、分かっていたんだ…、分かっていたつもりだったけれど、…震えた。潮の味のする口付けが誘う、キーンの想いに引き込まれる。これほどまで実直に、強引に、熾烈に、俺を−−−。
「? 好みのものがないのか? …」
好みのものがないのか?に敏感に反応した店主が、「お、お待ちください! 当店の最新の、まだコレクションにも出していない新作が…!」と血相を変えてバビュンと消えた。なんてコミカル。足がぐるぐる旋回している。これじゃまきりギャグ漫画。
「うぅ…」
だけど!!! だけどよ!!!! おかしいって!!!!
『指輪などでお前を縛るつもりはない』
たった数日前、そう言ったお前が何でまた! 前言撤回してこんなこと仕組むかな!!!!
いらない。ホントにこんなものいらない。指輪だって? もしかしてダイヤの下にGPSでも入ってるのか? それだったら笑ってやる! そんで絶対受け取らねぇ!!
「指輪なんかいらねぇよ、…いらねぇ!」
それにさ。
そんなもの、もうこの指に輝いている。
お前がそこに口付けるたび…、甘く疼く硬球を握る指先。
『誓いのリングだ』
お前がそう言って空にかざしたこの左手。あの瞬間から今もこの薬指に輝いている…。見えないのかよ? インビジブルリング!
「茂野?」
「…お前ってホントに呆れるほどにバカな時あるよな!」
とは言ったものの。キーンを前代未聞のバカにさせてるのは「俺」だよな、やっぱり。そりゃ責任取らないといけないよな。
「バカ?」
「あぁ!! そうだよ!!」
100万ドルの指輪よりも絶対。
空に瞬いたあのダイヤが美しい。
至上のものを手にしているのに。
もう他のものはいらないんだよ。
店内に誰もいないのを確認して。
そして分からず屋のキーンの唇。
さっと奪ってニヤリと笑った。
「…茂野」
「行こうぜ!」
手をとって、…そう、今度は俺がキーンの手をとって。
「お客様…、お待たせいたしました…こちらの…」
ほら! 逃げちまおう! ダッシュしよう!
セールスクラークが帰って来るよりも先に!
縛るよりも縛られるよりも!
もっとイカして楽しいこと!
いっぱいある、知っている!
一緒に行こう!走りぬこう!
「キーン!」
名前をずっと、呼び続けるから。
この手を決して、離さないから。
******************************************
なんと土方様が、私の駄文「Diamond Ring」を気に入ってくださって・・・
それだけでも身に余る光栄、死ぬほど嬉しかったのですが
なんと、続きを書いて下さって・・・もう嬉しすぎて天国までぶっ飛びそうになりました!!
だってあの土方様ですよ?あの、カッコいい素晴らしいキンゴロを書かれる土方様が〜〜〜!!
ぜーぜー・・・・・(落ち着け!!)。
老舗のジュエリーショップを貸しきって、何もかも完璧にセッティングし、リードするキーンがカッコ良すぎる〜!!
それに対して、内心絶叫の吾郎が面白くて!!爆笑してしまいまいたv。
ダイヤにGPSって!
キーンなら大真面目に
「ではこの指輪のサイズ直しと・・例の特別仕様で頼む。」とでも言いそうでvv。
そして店員とのやり取りにも笑ってしまいましたv。
身悶えしながらも・・・吾郎はキーンの愛を痛いほどに感じてしまって。
「前代未聞のバカにさせてるのは「俺」だよな」
そう、そうなんですよ!!こんなになる程キーンは吾郎の事を!!
キーンの愛をしみじみ感じました。そして吾郎もキーンを・・・。あわわvv。
でもやっぱり吾郎は指輪には興味なくて。
だって吾郎にとっては「あの瞬間から今もこの薬指に輝いている」んですもの!!
そして駆け出す二人。
「名前をずっと、呼び続けるから。
この手を決して、離さないから。」
離さないで下さい!その手を死ぬまで離しちゃいけません!!
未来へ向かって駆けて行く二人には涙が出そうになりました。
感動でした・・・・・。
また、私の駄文からセリフを抜粋下さったり
恥ずかしながら・・私が書きたかった事をちゃんと分かって下さって、こんなに素敵に描いて下さって!!
こんなに嬉しい事は御座いません。
本当に・・笑いあり、感動ありの素晴らしいお話を・・ありがとうございました!!
心より御礼申し上げます。
こんぺいとう 2010.2.6
戻る