僕の好きな君は華奢とは決して言えないし、色も白くない。


 力だって僕と同じくらいあるだろう。

 だから、負けないように、少しでも君の上に立っていられるように日々努力だ。

 それが自分の、男としてのプライド。



 極偶に、何で君なんだろうと考えてしまうことがある。

 周りに目を向ければ小柄で可愛い子が居るはずなのに。


 でも、君を見るだけで、君を思い出すだけで。



 やっぱり好きだなと思わずには居られない。










 勝敗の行方











「だぁっ、マジかよ〜」

 海堂のマウンドで、頭を抱えながら吾郎が信じられないと言ったような声を出した。
 その声に寿也が額の汗を拭いながら答える。

「10球勝負で多く打てた方の勝ち、というルールの賭けを持ち掛けてきたのは吾郎君だよ?」


 そう、つい先程。
 何時もの練習が終わった後に、その様な内容の賭けを持ちかけてきたのだ。
 そして勝った場合は、負けたほうが一つ言うことを聞くという典型的なものだった。


「そうだけどよぉ。なんであの一球を外したんだ、俺!!」
 吾郎は自分が外した一つのボールに後悔しつつ、自分達の部屋へと歩みを進めた。

 この賭けの結果は吾郎が10球中1球を外し、ミスの無かった寿也の勝利だった。

 吾郎は自分の勝利を確信していたので、どうも今の結果に満足できないらしい。
 そんな事を口に出しているうちにあっという間に寿也と吾郎の部屋へと着いた。


 部屋に入るなり吾郎は床へと座り込む。
 そして立っている寿也を見上げた。


「今回の勝負、俺の負けだ」
 負けは負け。
 悔しいなら次勝てば良い。
 そう思考を変えて吾郎は意を決した。

 割り切った様にしていても、やはり少しは悔しさが残るもの。
 悔しさを我慢している様な、吾郎のそんな表情を見て寿也はついつい笑ってしまいそうになる。
 それでもこれを前向きに持ってこようとする、それが彼の強さの原因の一つだと寿也は思う。

 寿也が笑ってしまいそうになる原因は単に『そんな表情の吾郎君も可愛い』と思っているからであるが。



「で、俺は寿にジュースでも奢れば良いのかよ」
 吾郎が切り出したのは、先程の賭けの戦利品だ。
 定番の戦利品と言った所だろうか。
 
「今日は別のにしようかな」
 寿也はにっこり笑って言った。
 その言葉に吾郎は珍しさと、その笑顔に少し嫌な予感を感じた。

 吾郎が勝利者である場合はジュースであったり、宿題であったりといろいろと変わったりする。
 だが、寿也が買った場合、今までこの戦利品以外を言った例がなかったのだ。

 
「別のって?」
 まるで予想がつかないといった感じに吾郎は問い返す。

「そうだね、とりあえず・・・吾郎君がその場から動かないこと、かな」
「はぁ?」
 何の脈絡も無いような戦利品に素っ頓狂な声を吾郎は吐いた。
 自分がこの場から動かないことに何の意味があるのだろうか。
 そう足元を見ながら考えると、照明で出来た寿也の影が自分の方に向かって大きくなるのが解った。

 そして次の寿也の言葉に吾郎はやっと理解した。


「いつも逃げる吾郎君を捕まえるのは一苦労だしね」

 ま、それも語酸味の一つなんだけどね。

 そう笑いながら寿也は無抵抗な吾郎の肩を掴み、そのまま床へと縫いつけるように押し倒す。
 そして軽く口付けた。


 それでも動こうとしない吾郎に寿也は疑問を放つ。

「今日は逃げないんだ?」
 クスリと笑いながら問う寿也に顔を赤らめながら吾郎がボソリと言の葉を零す。

「俺だって寿の事好きだし。・・・たまには、な」

 そんな予測もしなかった言葉を聞き、寿也は硬直した。
 吾郎の方も言い慣れないことを言ったせいかますます顔を赤くしている。
 そんな吾郎が可愛くて、そしてその言葉が嬉しくて力を込めて寿也は吾郎を抱きしめた。





「全く、吾郎君には敵わないよ」








 fin




「あ、本当にさっきので良いのか?」
「なにがだい?」
「『賭けの敗者が勝者に一つ言うことを聞く』の内容。俺がこの場から動かないってことで本当に良いのかよ」
「・・・そんな事言うと後悔するよ」






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07.03.12

こんぺいとう様からのリクエスト「メジャでほのぼの。ちょっと黒寿」を頂きましたので実行を。
といっても実行されているものが無いのでは?と思ってしまいます。
黒寿を目指す一方のあまり、ほのぼのが全く次元の違うものとなってしまいました。
申し訳ありません(謝
後、大変遅くなってしまいました(謝々

リクエスト有難うございました。


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天悠脩黎様、ありがとうございました!
「なんで君なんだろう」と考えてしまう寿也、「やっぱり好きだ」と思ってしまう寿也、吾郎の発言に硬直してしまう寿也とか・・・
寿也の気持ちが切ないほどに伝わってきてたまらなくなりました。天然吾郎も可愛くてvv。
「ほのぼの、ちょっと黒い寿也。」リクエスト以上の素晴らしい小説をありがとうございました!
二人の間に流れるゆったりとした穏やかな時間がしみじみといとおしいです。
読んだ後はこちらまでほのぼの暖かい気持ちになれました。

天悠脩黎様の書かれる小説が大好きで密かに通っていたのですが、キリ番をとってしまって実はパニックでした。
リクエストすべきか、ご挨拶もした事がないのにそんな図々しい事!
と散々悩んだ挙句のリクだったのですが、やっぱり・・・お願いしてよかったです、幸せです(感涙)!
突然の不躾なリクエストに関わらず快く受けて下さり、そして素敵な小説をありがとうございました!!
(2007.3.20)





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