どんな短い時間でも
どんな場所でも
練習すれば強くなれる。
俺達だっって・・・強くなれる。
当たり前だけど忘れていた。
そんな大事な事に気づくことが出来た・・・・
アメリカの大自然の、深い深い森の奥で。
その夜。
皆が寝静まった頃。
カイは一人、焚火の火を眺めていた。
PPBの圧倒的な強さと、この森の奥での出来事・・・そんな事を考えながら。
「あれ?カイ?」
聞き慣れた声がして、カイがふと顔を上げると。
「・・・木ノ宮・・。どうした、こんな時間に。」
「眠れなくてさ、散歩でもしようと思ったら焚火が見えて・・・誰かと思ったら。まさかカイとは思わなかったぜ。」
「お前が眠れないとは・・・珍しいこともあるもんだな。」
「なんだよ、それ〜!」
タカオはぶー・・っと膨れっ面をしながらも、カイの隣に腰かける。
「アントニオに負けたのはショックだったけどさ、そんな事より!
俺達だってまだまだ強くなれるんだって気づいたら
いても立ってもいられなくなっちまって。
俺、もっともっと練習して、もっともっと強くなりたい!!」
タカオは拳を握りしめた。
「・・・それで目が冴えて起きてきたのか。まるでガキだな。」
「なんだよ!ガキって・・・カイだって俺と二つしか違わねーだろ?
あ!そういうカイこそ、なんで起きてんだ?
お前こそ、気が昂っちゃって眠れなかったんじゃねーの?」
タカオがニヤニヤと笑う。
「確かにアメリカ大会を前にして、気持ちが昂ってはいるが。」
「へえ・・・カイでもそんな事があるんだな〜!」
「しかし俺はもう寝る。体調管理が出来ずして、強くなるも何もないからな。」
「え〜〜〜〜!いいじゃん!ちょっとだけ!ちょっとだけ付き合ってくれよ!」
「甘ったれるな!それとも、まさかお前・・・・一人では怖いのか?」
ギクッ・・・。
図星である。
眠れなくて小屋を出たものの、外は真っ暗。
暗闇の中、鳥が羽ばたく音、獣の足音などが聞こえてきて縮み上がった。
引き返そうと思ったら、すぐそこに焚火が見えたので
「誰か起きてるんだ!」と、喜んでやって来たのだった。
そんなタカオをジーッと見つめていたカイだったが。
「ガキのお守りは御免だ。とっとと寝ろ!」
そう言いながら、焚火の火を消そうとしたので
タカオはとっさにカイに抱きついた。
「ちょっとだけ!ちょっとだけでいいから!!」
そしてわざとらしく空を見上げて
「あ〜!星が綺麗だな〜〜〜!!」
と大げさに棒読みに言ったタカオだが、実際空を見上げてみると。
「いや、ほんと・・・綺麗だ・・・・・・すごい・・・・・。」
タカオの様子に、カイもつられて空を見上げた。
空には満天の星。天の川。
こんな星空は、日本ではとてもお目にかかれない。
2人とも、つい・・・星空に魅入ってしまった。
タカオがカイに抱きついた、そのままに。
暫く空を見上げているうちに
カイは、抱きつかれたその異常な状態に気づいて戸惑いを覚えたが
タカオは全くその不自然さに気付いた様子もなく
ぼーっと・・・無心のまま空を見上げている。
カイが少々焦りを感じ始めた頃、タカオはその体勢のまま、ふと気づいたようにカイの方を向いた。
そして。
「カイ・・・ありがとな?
今日、大事な事に気づけたのは・・・・お前のお陰だ。」
そう言ってニッコリと微笑んだ。
その、すぐ傍にある・・・ちょっとでもカイが首を動かそうものなら触れられそうな、タカオの笑顔に。
ドクン・・・!!
カイの心臓は跳ね上がった。
タカオの瞳は、この星空を閉じ込めたように深く澄んだ色をしていた。
引き込まれそうな程澄んだ瞳が、柔らかそうな頬が唇が、すぐそこにある。
しかも、抱きつかれて体が密着している・・・。
この・・・とんでもない状態で、こんな事を言われて。
火渡カイともあろうものが
今まで経験したことのない類のこの出来事に、どう対処したら良いのかわからない。
ガラにもなく、頭に血が上ってくるのがわかる。
頬が染まっていくのも。
暗闇故、気づかれてはいないと思うが。
たかが、これしきの事で・・・・。
一体、どうしたというのだ!!
「お、俺はただ・・・お前が負けるところを見たかっただけだ。」
精一杯、虚勢を張った。
「それでもさ。やっぱりカイのお陰だよ。」
そしてタカオはもう一度ニッコリと笑った。
そんなタカオに紅い瞳をつい見開いて見つめてしまって、見つめ合ってしまって。
その瞬間・・・・時が止まった───────。
「・・・・。どうでもいいが、いい加減、離れろ。」
ようやく、絞り出すように、そう言えた。
そう言えた自分に、カイは心からホッとしていた。
「あ、ごめん!」
タカオもようやく、事もあろうかカイに抱きついていた自分に気づき、大慌てで手を放す。
「ゴメン、カイ!俺、つい・・・!!」
カイに抱きつくなんて!
あのカイに抱きつくなんて〜〜〜〜〜!!!
俺としたことが、なんて恐ろしい事をしちまったんだ〜〜〜〜〜〜!!!
で、でも、カイ、怒ってないみたい・・・だよな??
ちら〜〜〜〜っとカイを伺い見るタカオ。
「・・・・・。なんだ。」
やっぱり、怒ってないみたいだ・・・・。
「は、ははははは・・・・!!」
タカオの笑いは、照れ隠しか焦り隠しか。
「おかしなヤツだ。」
そんなカイに、タカオは脱力したように溜息をついた。
あ〜・・・怒ってなくて安心したと思ったら・・・なんだか眠くなってきたぜ・・・・・・。
一方、カイは。
ようやくタカオが離れてくれて、ホッと安堵していたが
先程感じたタカオのぬくもりが、まだその体に残っていて
タカオの柔らかさが、感触が、まだカイの肌に残っていて
未だ心臓が高鳴っている・・・・動揺が治まらない。
「・・・・。」
どうかしている、俺は。
恐らく、誰かに抱きつかれた経験など、今までないからだ。
だから、あれしきの事で・・・・くっそ・・・・・・!
「チッ・・・。」
カイは小さく舌を打った。
とにかく、早くこの場を離れた方が良い。
一刻も早く、この異常な状態から脱したかった。
カイがこの場を立ち去るべく、立ち上がろうとしたその時。
トン・・・と、タカオの頭がカイの肩に。
「おい。」
何故また・・・とカイは声を上げたが、タカオは・・・・・・。
眠ってしまっていた。
〜〜〜〜〜〜〜!!!
たった一瞬で!今だぞ?今!!
たった今、慌てて離れて照れ笑いしていたというのに!!
なぜ、この一瞬で眠れるんだ!!!
これだから、ガキは・・・・・・!!!!
カイは頭を抱え込みたい衝動に駆られたが・・・・。
タカオがカイに寄りかかって眠っている。
タカオのぬくもりを、もう一度感じ
寄りかかられる重みを感じ、タカオの髪がカイの鼻先をくすぐり・・・・。
やはり先程と同様・・・ドキドキと心臓が高鳴ってきた。
しかし今度はタカオが眠っているからだろうか
それほど焦りはなく、安らぎのようなものを感じた。
規則正しい寝息が、何やら更に安堵感を誘うというか・・・・。
妙な感覚だ、とカイは思う。
「・・・・。」
タカオのぬくもりが心地よく、なんとなく、こうしていたかったので
カイはタカオが寄りかかるそのままに、暫く星空を眺めていた。
本当に降ってきそうなほどの見事な星空で・・・・この世ならざる世界のように感じられた。
こんな所にいるからだろう、こんな妙な気持ちになるのは。
これは、つかの間の夢だ。
まあ・・・たまにはこういうのも悪くない・・・・。
そんな事を感じながら。
やがて意を決したように、タカオを抱き上げ立ち上がる。
いくらなんでも、いつまでもこうしている訳にもいかない。
タカオを叩き起こせば楽だったのであるが、何故かそうしようとは思わなかった。
いわゆる姫抱きにして、腕の中のタカオを見下ろすと。
安心しきったような寝顔で、寝息を立てている。
「絵に描いたような馬鹿面だな。気持ちよさそうに眠ってやがる・・・・。」
カイはフッ・・と笑う。
こんな赤ん坊のような寝顔のタカオ
ただのガキでしかない、普段のお気楽馬鹿なタカオ
とことん前向きで能天気で笑顔が絶えなくて・・・そんな姿は時にカイを苛立たせたが・・・・。
突然突拍子もない事をしでかしては驚かせる・・・・・そう、先程のように・・・・そんなタカオ
そしてバトルの正念場では、信じられない程の強さを発揮するタカオ。
寝顔を見ていると、様々なタカオが次々カイの頭に浮かんでは消えた。
自然、カイの口元に笑みが浮かぶ。
タカオの百面相は見ていて飽きない。
あれらのタカオが全て、同一人物なのだから、驚きだ。
つくづく・・・
よく分からない男だ。
木ノ宮タカオ・・・・お前というヤツは。
カイはタカオを抱いたまま、小屋へと歩いて行った。
他のメンバーは、すっかり眠っていた。
それにホッとしつつ、皆を起こさないように、静かにタカオをベッドに横たえ、そしてそっと布団をかけてやる。
その時、ふと・・・タカオの下膨れの頬に触れてみた。
殆ど、無意識に。
タカオの頬の柔らかさが手に優しく、胸をついた。
「・・・・。」
カイは焚火の火を消すために、もう一度外へ出る。
そして一人、星空を見上げた。
何故か胸が痛む。
痛むのだが、何故かとても・・・胸の奥があたたかい・・・・・・。
今日の俺は・・・・
やはり、どうかしている。
きっと、この星空のせいだ──────────。
end
無印の見直しをしております。
日記に感想がてら、小ネタを書いていたら
気づけば日記小ネタにしては随分長くなってしまって。
もう、真面目に上げてしまえ〜〜!!
という訳です。
ほぼ一気書き。
久しぶりです!こんなに一気に書いて一気に上げるのは!!
さて。
焚火のシーン、ジッちゃんではなく、タカオと!に捏造v。
思わずカイに抱きつくタカオ
「お前のお陰だよ」と言うタカオ
予期せぬ出来事に心臓バクバクなカイ
カイに寄りかかって眠ってしまうタカオ、で姫抱き〜〜〜!!
が次々頭に浮かんで、全部ぶち込んだら
小ネタのつもりが、こんな長くなってしまった。
しかも特に全く進展しないという申し訳なさ。
大事な事にタカオが気づいた日、カイも大事な気持ちに気が付・・・くのか??やっぱり、まだ?
ここまで読んで下さり、ありがとうございました!!
(2014.12.30)